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頑張りすぎていない?あまり知られていないアスリート・スポーツ愛好家のメンタルウエルネスの問題

更新日:2021年7月7日

突然ですが、質問です。


あなたは、常に結果を求められていて、「今より優れた自分」を常に追い求めていますか?


答えがYESなら、何等かの依存症に陥る可能性があります。


「結果を出す為、上を目指す為には当たり前でしょ!」と、スポーツ選手でなくとも多くの人は思うかもしれません。


しかし、「今より優れた自分」を常に追い求めている理由が「目標達成」ではないとしたらどうでしょうか?


例えば、


  • 結果を出さないと、怒られるから

  • 結果を出さないと、友達が離れていってしまい孤独を感じてしまうから

  • 常に他の人と比較して、自分が劣っていると思ってしまうから(ボディーイメージを含む)

  • 常に、自分が嫌い、自信のない自分が嫌いだと思ってしまうから

  • 頑張っている自分を認めてもらいたいから

  • 期待に応えられているか常に不安になるから


以前blogで紹介しましたが、ヘルスコーチ仲間のKannaさんは幼少から大学まで馬術の選手をしていたアスリートで、様々な試合や全国大会に出場していました。同じ馬術クラブの選手が、国体優勝、全日本優勝、オリンピック出場と結果を出している中、彼女は同じような結果を出すことができなかったそうです。そして、憧れの先輩の一言「ブーツまだはけないの?」がきっかけで、気がつくと夜中にクッキーを一箱食べる等のBinge eating(むちゃぐい障害・過食障害)になっていたそうです。そして、この問題は長期に渡り続いたそうです。


彼女は、


「今思えば、新しいブーツは固くて簡単にはけない。はくのに時間がかかっても当然。乗馬は体位等も評価に左右されるので、結果がでないのは自分の足が太いから!と憧れの先輩の一言で思い込んでしまいました」


と、感情食いを始めたきっかけについて話をしてくれました。


Kannaさんは、エモーショナル・イーティングを克服した経験を活かし、長年多くのエモーショナル・イーティングで悩んでいる方のサポートをされていて、現在はヘルスコーチビジネスの成長をサポートするビジネスコーチとして活躍されています。



「結果を出す為には努力は惜しまない」という気持ちや、実際に頑張ることは決して悪いことではないです。しかし、ウエルネスを害してまで頑張り続けるとその代償は大きいです。


私も昭和のスポコン時代に育ったので、結果がでないと「根性・気合が足りない!」と今でも時々思ってしまいます。しかし、結果ありきで全てを判断してしまって本当に良いのでしょうか?アスリートのみならず、頑張っている人は気合と不安の狭間で悩んでいると思います。指導者の一言、同僚の一言、先輩の一言、友達の一言が、ウエルネスを害するきっかけになってしまったらどうでしょうか?


私の場合、小さい時から学校の成績があまり良くなくて人一倍お転婆だったので、学校の先生からは、よく「ダメな子」と言われていました。性格的に負けず嫌いなので、常に期待に応えられているかが不安で頑張り続けました。そして、目標達成に向けて頑張り続けて資格を取得し憧れの事務所に入ることはできたものの、「そんなのできないの!」の事務所の先輩の一言でストレス食いを止められなくなり、スポーツでは体からの信号を無視して頑張り続けた結果、ACL断裂してしまいました。


ストレス食いは感情食い(emotional eating)で、医師による治療が必要な摂食障害や食物依存の一歩手前。多くの人は知らないうちに感情食いをしていて、知らないうちに摂食障害や食物依存になってしまいます。また、摂食障害や食物依存の治療は長期に渡ります。


「アスリートにとって怪我はつきもの」という人もいますが、アスリートにとっての怪我は、精神的に大きなダメージを与える要因です。例えば、練習ができなくなり「遅れをとる!」と焦ったり、「もうだめだ!」と思ってリハビリと向き合えなくなったりしますし、友達との接点も少なくなるので孤独を感じ、前向きになれなくなるケースは少なくありません。


私は、幸運にも素晴らしい医師、理学療法士、パーソナルトレーナー、ヘルスコーチとの出会いがあり、ACL再建後、全日本に出場することができましたし、ストレス食いも克服できました。


また、自分の経験を通じて、「結果を出す為にウエルネスまで諦めてよいのか?」「短期的に結果が出ても長期的に見てどうか?」「頑張った代償は?」と考えるようになりました。


スポーツ現場でのサポート体制


アメリカのスポーツ現場では、スポーツ心理学を勉強したコーチやスポーツ心理学コンサルタント(精神科医ではないがカウンセリングなどを行い精神科医と連携をする専門職)の方が常駐していて、地域のクラブチーム、高校・大学スポーツや、プロ選手をサポートする環境があります。コーチらはアスリートにエクササイズ・スポーツ依存、摂食障害、アルコール依存、薬物依存等のメンタルウエルネスの問題の兆候が見られないか注意しています。そして、そのような兆候を見つけたら深刻な問題にならないように対処します。また、ジュニア選手のサポート体制についても様々な取り組みがなされています。


日本はどうでしょうか?



「日本ではアスリートのメンタルヘルスについて研究がなされていないし、実態を把握するデータもない。しかし、アスリートも1人の人間。メンタルヘルスの問題を抱える人はいる。アスリートが置かれている環境を考えると、海外の取り組みを参考に仕組み作りが必要。相談員はコーチとは異なる独立した人がよい。」

と、取材を受けた精神科医の先生が答えていました。


私の活動を理解してサポートをくださる指導者や医療従事者はいるものの、残念ながらまだそのような環境は整っていない気がします。


例えば、「アスリートのメンタルウエルネスのサポートの必要性」について一部の指導者からざっくばらんにお話を伺ったら、


  • 需要はあることは認識していても、積極的な対策はとれていない

  • 病気になったら病院に行くように促す

  • 積極的に兆候を見つけて対処したり、予防的な活動をすることはやっていない

  • 指導者はその問題には入っていけない

  • 指導者は、『アスリートに対して○○と声かけて』とアスリートとのコミュニケーション方法について指導されることに抵抗があると考える人もいる


という意見がありました。


このことについて、アメリカで心理カウンセラーとして従事し、プロバスケットボール選手を目指すジュニア選手を育成するアカデミーも運営しながら、自らもコーチとして指導しているマーク・バートンさんに話を聞く機会がありました。(Burton Basketball Academy)


マークさんの話には、私がアメリカの大学院でスポーツ心理学を勉強していた時に日本とアメリカのギャップを感じたのと同様に、スポーツ現場での両国の違いを感じました。


マークさんは、自らプロバスケットボールを目指した経験を活かし、日本とアメリカの架け橋になれればと日本人のジュニア選手を受け入れて指導をしています。また、マークさんの奥様は、選手の栄養面のサポートをしています。このアカデミーでは、日本からバスケットボール留学をする選手のサポートはもちろん、リモートで日本在住の選手もサポートしています。


彼ら曰く、


「アスリートと対話することに抵抗を感じる日本の指導者はとても多いと思います。そこには、教える側と教わる側が対等ではないと考えてしまう文化的背景があるからだと思います。トレーナーの役割を考えると、絶対にアスリートと対話して体の不調等を知っておくべき。一方、コーチはアスリートやアスリートの親の声をあまりに聞きすぎると、自分の意見を曲げなければならない部分が増えてくるので、そのバランスが難しい。」


とのこと。


以前blogにも書きましたが、Weight of Goldというドキュメンタリーがきっかけで、アメリカのオリンピック協会がアスリートのメンタルウエルネスのサポートに乗り出したのもつい最近。日本で環境が整うのは少し時間がかかりそうです。


なので、私はヘルスコーチとして、アスリート・スポーツ愛好家、コーポレートアスリートと呼ばれるビジネスリーダーやプロフェッショナルを対象に、アスリートウエルネスの啓蒙をもっとすべきだと改めて感じました。


アスリート・スポーツ愛好家によるエクササイズ・スポーツ依存、感情食い・摂食障害の実情


アスリート・スポーツ愛好家による「依存」の問題は、スポーツ心理学で学ぶテーマの1つです。残念ながら、日本のデータがないので日本の状況を把握することは困難ですが、海外文献でヒントとなる情報がありました。エクササイズ・スポーツ依存や感情食い・摂食障害を中心にご紹介したいと思います。


2019年10月25日のEat Weight Disord.にドイツのデータがありました。その報告によると、アマチュア持久系スポーツアスリートの6.2%に食物依存、6.5%に摂食障害、30.5%にエクササイズ・スポーツ依存があるとのこと。(The relationship between food addiction and patterns of disordered eating with exercise dependence: in amateur endurance athletes:Eat Weight Disord. 2019 Oct 25)


また、エクササイズ・スポーツ依存は摂食障害と密接な関係にあり、約39~48%の摂食障害の患者(アスリート)はエクササイズ・スポーツ依存者であるという報告も別の論文にありました。(Hausenblas HA, Downs DS. How much is too much? The development and validation of the Exercise Addiction scale. Psychology and Health. 2002;17:387–404.)


そして、ジムを利用するスポーツ愛好家がエクササイズ・スポーツ依存になるという報告もあります。(Which sports are more at risk of physical exercise addiction: A systematic review Laura Di Lodovico 1, Ségolène Poulnais 2, Philip Gorwood Addict Behav2019 Jun;93:257-262)


感情食い・摂食障害はどうでしょうか? 


感情食いと摂食障害の境界線も難しいのですが、感情食いは、ある特定の感情を対処する為の健全ではない食習慣で、アスリートの場合、健全でない食習慣が公になるとチームから離脱させられると思いこんでしまい、それを隠す傾向にあることから、実情を把握することは困難です。


なお、アメリカでは“Eating Disorder”と“Disordered Eating”を区別していますが、日本では両方とも「摂食障害」と区別をつけていないようです。違いは、American Psychiatric Association (アメリカ精神医学会)が定義する診断基準と一致する状態か否か?です。つまり、Eating Disorderは、摂食障害としてアメリカ精神医学会が定義する診断基準があり、その基準で診断されます。その代表的なものが、神経性無食欲症、神経性大食症や、むちゃぐい障害です。一方、Disordered Eatingは、必ずしも摂食障害として診断されるものではなく、広義の意味で、食べ方のパターンが健全ではない行動を指します。EDNOSのように、過食症や拒食症とも特定できない「不特定の摂食障害」とも異なります。つまり、「感情食い」は、基準に該当しなければ、Disordered Eatingとなるわけです。


少し古い文献ですが、体操選手の内Eating Disorderの問題を抱えている選手は約3%、Disordered Eatingの問題は約18%ですが、引退後の選手を調べてみるとEating Disorderは約20%、Disordered Eatingは約73%だそうです。(Kerr, Berman and De Souza (2006)Disorderd eating in women’s symnastics;Perspectives of athletes, coaches, parentes and judges. Journal of Applied Sport Psychology, 18,28-43)


そして、アメリカのスポーツ界全体でみると62%は健全でない食習慣をしており、アスリートでない人とアスリートを比較した場合、健全でない食習慣になる確率は変わらないものの、アスリートの方がEating DisorderよりDisordered Eatingの割合が多いことも報告されています。そして、問題の原因はアスリートもアスリートでない人も変わらないそうです。また、63%の女性アスリートが何等かのEating Disorderの症状を発症するのは9年生から12年生(日本で言うと中学3年生から高校3年生)だそうです。(Robert S, Weinberg, Dainel Gould(2016)Foundations of Sport and Exercise Psychology)


まずは知ってもらうことが大切!


エクササイズ・スポーツ依存は、オーバートレーニングから発展していきます。エクササイズ・スポーツ依存には、運動そのものを目的とする場合、体重減少を目的とし運動はその手段として使う場合の2種類があります。この2種類を区別することはなかなか難しく、また摂食障害と密接な関係にあることからとても複雑です。また、エクササイズ・スポーツ依存者の多くは、引退後やその後の人生の過程でアルコール依存、薬物依存になる可能性が高いという報告もあります。(Krivoschekov,S.,&Lushnikov、O(2011)Psychophysiology of sports addictions (exercise addiction) Human Physiology, 37, 135-140.)


ヘルシーな食事をし、毎日トレーニングを沢山してもダイエット効果が出ない場合は、オーバートレーニングによるストレスで女性ホルモンの分泌量に異常が生じている可能性があります。ストレスホルモンであるコルチゾールが増加すると、代謝が遅れ、体脂肪が燃えにくくなるのです。「なぜ効果がでないのか?」の理由をしっかり確認しないと、オーバートレーニングからエクササイズ・スポーツ依存に発展してしまう可能性があります。


摂食障害は、感情食いから発展していきます。ストレス解消といって甘い物やポテトチップス等の揚げものを食べたり、ストレスを食べ物で解消し続けると、摂食ホルモンのバランスが崩れ、甘い物や脂っこく塩味が強い食べ物を渇望し、ストレス食いを止めることができなくなる可能性があります。食べ物を制限するのは効果的ではなく、ダイエットとリバウンドを繰り返すYo-Yo Dietをする人は、感情食い若しくは摂食障害の可能性があります。オーバートレーニング同様に、その原因を追究しそこにアプローチをしない限り問題は繰り返されます。


サインを見逃さないで!


スポーツは生涯楽しめるもの。大好きなスポーツがきっかけでウエルネスを害することになるのは残念です。


なので私はAthlete Wellness®を、「アスリートがひとりの人間として、現役中はもとより、第二の人生においても生き甲斐を見つけて輝く人生を実現できる基盤」「持続可能なパフォーマンスを支える心技体のバランスを可能とする基盤」と定義しています。


エクササイズ・スポーツ依存症も摂食障害も、自分ではコントロールすることができない状況下におけるストレスに対して、唯一自分がコントロールできる「運動する」「食べる」という行為をすることですが、それは同時に自分を傷つけるという行動です。


前述の通り、エクササイズ・スポーツ依存や摂食障害は、現役中はもとより引退後にも影響があることが現時点で分かっています。だからこそ、早期発見・早期対処が不可欠になると思います。


よって、オーバートレーニングや感情食いにならないように、そして深刻な問題に発展しないように、この問題と誰にでもできる対応策をより多くの人に知ってもらうことが大切だと思っています。もし、悩んでいる人がいたら、ちゃんと勉強をしているヘルスコーチや指導者、医療関係者に相談するとよいと思います。


Human doingからHuman being へ


目標達成に向けてやらなければならないことは沢山ありますが、それらのタスクで埋もれている状態ではありませんか?その状態はマインドレス(mindless)の状態、つまり意識が「ここ」にない状態です。マインドフルな状態とは、全ての動作に意識が行きわたっている状態で、最高のパフォーマンスをするにはマインドフルな状態でいることが重要です。また、日々の生活のなかでも、マインドフルな状態でいることができれば、自分の心の動きや思考の癖などがわかるようになっていきます。マインドフルな状態でいられるように、マインドフルネス・メディテーションを取り入れるのも一つの選択肢だと思います。


啓蒙冊子について


自分の経験を活かして、同じような悩みを抱えている人のサポートをしたく、アメリカでヘルスコーチの資格(専門:エモーショナルイーティング、腸の健康、ホルモンの健康)とアメリカの大学院でスポーツ心理学の資格をとり、アスリート・スポーツ愛好家、コーポレートアスリートと呼ばれるビジネスリーダーやプロフェッショナルを対象に、アスリートウエルネスの啓蒙やコーチングをしています。


多くの人にアスリートウエルネスについて知ってもらいたく、啓蒙冊子を作製しました。無料で配布していますので、ご希望の方はご連絡ください。







































参考文献:

Understanding Emotional and Binge Eating: From Sports Training to Tailgating Conrad L. Woolsey, Joe Mannion, Ron D. Williams Jr, William Steffen, Mara S. Aruguete, Marion W. Evans, Brandon D. Spradley, Bert H. Jacobson, William W. Edwards, Weston S. Kensinger, Niels C. Beck(Understanding Emotional and Binge Eating: From Sports Training to Tailgating – The Sport Journal)

Mahoney, John and Hanrahan, Stephanie J. (2011). A brief educational intervention using acceptance and commitment therapy: Four injured athletes' experiences. Journal of Clinical Sport Psychology 5 (3) 252-273.)


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