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「睡眠不足 思わぬ心身の不調となって自分に返ってくるものです」の話

コロナ禍、全てがオンラインになりました。仕事のやり方もすっかり変わり、部下・同僚とのコミュニケーションも全てがオンライン。


今までも会議が多かったのですが、ちょっとしたコミュニケーションもオンラインになると、終日PCスクリーンの前に座っている状態です。


海外との会議があると、夜もPCスクリーンの前に座っています。


メリハリがない日生活をしていると、オンとオフの環境を作ることが難しいですよね。

私の周りにも同じような環境にストレスを感じている人は少なくありません。


どんなところにその影響がでているのか?と聞いてみると、「朝すっきり起きれない」「眠くて会議に集中できない」「仕事に集中できない」「頭がボーっとして、やる気がでない」と、睡眠に関連する不調の訴えが目立ちました。


そして、「睡眠は大切だとわかっていても、心配事があって眠れない」「眠れないからついベッドの中でもスマホを見て夜更かしをしてしまう」と、その理由は様々です。


実は、日本人の平均睡眠時間は、OECD加盟国27か国中ワースト1位(OECDレポート2018年)で、日本人の睡眠不足による経済損失は年間15兆円に及ぶ試算だそうです。(RANDA Europe 2016 why sleep matters-the economic costs of insufficient sleep)


先日、UCLAで医学部教授をされている睡眠の専門家のジェニファ・マーティン博士のお話を聞く機会がありました。とても興味深い内容でした。


睡眠は、医学・栄養学と同様、日進月歩。科学の発展とともに、生物学的・心理学的なことが色々わかってきていますが、解明されていないことも沢山あります。


マーティン博士の話を踏まえて、「睡眠の重要性と睡眠リズムを取り戻す方法」についてお話をしたいと思います。


睡眠不足、思わぬ心身の不調となって自分に返ってくるもの


パフォーマンス向上に必要なことを実践しようとする場合、何をやりますか?


おそらく、体力作りのトレーニング、食事、そして栄養補給にサプリメントなどが浮かぶのではないでしょうか。


そこには、「睡眠や睡眠の質」に関するアクションは含まれないと思います。


睡眠は、私たち人間の生命活動において、とても重要な役割を果たしています。


例えば、寝ている間に、リカバリーに必要なホルモンが上昇し、体は生成・再生・修復を行い、日中で得たあらゆる情報(感情的な情報・筋肉が覚えた情報等を含む)を脳内で整理し、長期的な記憶として保管します。


また、眠っている間に脳細胞は最大60%縮み、そのギャップに髄液が入り脳が洗浄され、起きている間に溜まる毒素が除去されるという説もあります。


つまり睡眠は、食事と同様、私たちの生命活動には欠かせないのです。


人は人生の約30%を睡眠に費やしますが、睡眠不足の影響は、心臓病、高血圧、肥満といった健康の問題を生じるだけではなく、生産性や医療経済にも大きな影響を与えます。


睡眠の問題は、無呼吸症候群や睡眠障害といった病気以外では、ストレスや生活習慣に起因することが多いです。


また、睡眠不足は体重増にも影響を与えます。体重・体脂肪の似たような人で、一人は1日6時間以下の睡眠時間、もう一人は1日7~8時間の睡眠時間をとり、長期的に体重の増加を比較した結果、6年後には、1日6時間以下の人の方が2倍になったそうです。


8時間の睡眠が一般的に健康に必要と考えられているがそれは本当か?


必要睡眠時間は、ライフステージで異なります。

・新生児は、14時間から17時間

・1歳から2歳は、11時間から12時間

・3歳から5歳は、10時間から13時間

・6歳から13歳は、9時間から11時間

・14歳から17歳は、8時間から10時間

成人はどうでしょうか?


人によって異なりますが、深刻な健康問題にならない為には、7時間の睡眠が必要と考えられています。そして、アメリカの国立睡眠財団によると、成人に推奨される睡眠時間は7時間から9時間です。


ペンシルベニア大学の研究チームの報告によると、6時間睡眠を1週間から10日間続けると、1晩徹夜した人と同程度の認知能力にまで低下してしまうそうです。(Van Dongen et al, Sleep 2003)


つまり、6時間未満の睡眠が常態化している人は、自分では睡眠は足りていると思っても、脳のパフォーマンスや生産性低下し、その人本来の能力を発揮することができないということになります。


ライフスタイルや年齢によっては、7時間寝ることができない人もいますが、そのような場合は、昼寝をすると一定の効果はあるようです。15分の昼寝をすることで、学校の成績も上がったという報告もあります。


ベッドでのスマホは最悪

コロナ禍、全てがオンラインになり、必要以上にPCやスマホに頼る生活になっていると思います。スマホを見ているから眠れない、スマホを見ていなくても眠れない。眠れないからスマホを見る。そんな悪循環な環境にいる人は多いと思います。


現代社会では、多くの人は、必要睡眠時間より2~3時間少ない時間しか寝ていないそうです。


それは、デジタル社会が原因で、24時間誰かと繋がっていたいと感じる人が増えているからです。


このような環境下で生活をしていると、体内の時間が遅れ、睡眠を促進するメラトニンが出なくなり、眠くなりません。


つまり、睡眠遅延と言って、時差ボケ状態になっているのと同じです。


本人はあまり気づかないかもしれませんが、このような生活が続くと、気分や態度に影響が出るだけでなく、学習能力が低下し、体力も落ちます。そして、免疫力が下がり体調を崩しやすくなります。


その結果、欠席や遅刻が増えることになります。そうなると、学生の場合は、学校の勉強についていけなくなったり、社会人の場合は、職場に迷惑をかけることになります。


脳の再教育をすることで、睡眠のリズムを取り戻すことができる


Quality of lifeを得るには、睡眠の質の向上が必要ですが、それには睡眠のリズムを取り戻すことから始めます。


デジタル社会において、眠れない人の多くは、スマホ依存症かもしれません。


ベッドでスマホを見ながら過ごすと、横になりながらスクリーンのブルーライトを浴びていることになります。


ブルーライトを浴びると、メラトニンの量が低下し、目が冴え脳は興奮状態になります。


そうすると、脳はベッドを「寝る場所」ではなく、「遊ぶ場所」と勘違いします。その結果、ベッドに入って横になっても眠くならないし、眠くならないので、スマホを見るという悪循環が起きるのです。


しかし、脳を再教育すれば、睡眠のリズムを取り戻すことができます。


例えば、次のルーティーンを6週間継続する方法があります。

1. 寝る1時間前にスマホを見るのを止める

2. 毎日一定の時間に寝る(例えば11時)

3. 寝る前にお風呂に入る

4. 寝る前にビスケット1枚とミルクを飲む

お風呂に入ることで体温が上がり、出ると体温が下がります。そのことで、眠りに入りやすくなります。


寝る前のおやつは「空腹はダメ」というものではなく、眠くなるという合図の役割です。


1から3のルーティーン後におやつを食べる行動を4週間続ければ、脳はおやつが「眠くなる」という合図と認識し、ベッドに入ったらちゃんと眠れるように、に脳が再教育されていくのです。

正しい睡眠のリズムを整えるには、寝る時間と起きる時間を規則正しくすること


マーティン博士によると、睡眠のリズムを正しく整えるには、スリープドライバーと概日リズムの役割を理解することだそうです。


スリープドライバーとは、起きている間に蓄積される「寝たい」という生物学反応です。簡単に言えば、起きている時間が長ければ、眠くなるという反応のこと。


人が起きている間、体内の細胞が活発に活動をし、脳細胞が処理できる以上のスピードでアドレナリンが発生します。


アドレナリンの量が多いとスリープドライバーも大きくなります。寝ている間、アドレナリンは減り、他の老廃物も脳からなくなります。


つまり、寝ることで、体は適切にアドレナリンのレベルを下げるのです。これがスリーブドライバーのメカニズムで、適切に機能をしないと翌日起きた時に「疲れた」と感じます。


平日、深夜まで会議をしていても、週末沢山寝れば大丈夫!と考えがちです。例えば、金曜日に夜更かしをしても、土曜日昼頃まで寝て、起きるとすっきりしていたりします。


そして、日曜日もゆっくり起きて気分が良かったりします。


これは、しっかり寝たことでアドレナリンのレベルが下がったことですっきり起きられた、ということです。


しかし、月曜日に備えて土曜日に早く寝ようと思っても、寝つきが悪いということになります。


これは、起きていた時間が短すぎるからです。


大人の場合、しっかり寝た後、スリープドライバーが機能するには、約16時間起きている必要があり、早く寝たとしても夜中に目が覚めてしまいます。


概日リズムとは、約25時間周期で変動する生理現象で、一般的に体内時計とも言います。そして、基本的に光や温度、食事など外界からの刺激によって修正されます。


概日シグナルが出ている時は、スリーブドライバーは弱くなり、スリープドライバーが強い時は概日シグナルは小さくなります。


起きたり、眠くなったりするのは、このようなことが体内で起きているからです。

一日のサイクルで見ると、2回眠くなるサイクルがあります。


起きてから8~9時間(だいたい昼食時)たつと、概日シグナルが小さくなり、スリープドライバーが強くなります。


ちゃんと寝ても眠くなるのは、これが原因です。昼食後眠くなり、コーヒーを飲みたくなるのも、これが原因なのです。


さらに、起きてから14~15時間たつと、スリープドライバーは強くなり眠くなります。


よって、朝目が覚めて、夜眠くなるという体内時計に沿って、睡眠時間を規則正しくすることで、正しい睡眠のリズムを作ることができるのです。


問題は、戦うか逃げるか反応(fight or flight response)


この反応は、差し迫った危機的状況において、戦うか逃げるか等、人間が生き延びるために備わった反応と考えられいます。


この反応は、普段考えられない力を発揮できるように、アドレナリン等のホルモンが分泌され、すぐ動けるように体を準備します。


例えば、原始時代、あなたが森で寝ているとしましょう。急に近くで狼が吠え始めたとしたら、襲われるか心配になり、眠れませんよね。


このような状況は、現代社会にはないのですが、脳がストレスを認知した場合に、同じような現象が起きるのです。


例えば、仕事で心配ごとがあったり、子供が学校でトラブルに巻き込まれたりした時、脳がストレスを認知し、アドレナリンが分泌し、脳が興奮します。


そうすると、眠れなくなのです。つまり、ストレスを抱えていると夜眠れないのは、知覚ストレスが原因の1つです。


眠れないからと、睡眠導入のサプリメントや薬を飲んでもスッキリしないのは、眠れないから原因にアプローチをしてないから。


もちろん、無呼吸症候群や睡眠障害は、専門医師の治療が必要ですし、怪我や病気で眠れない場合は、主治医の指示に従っての対応が必要です。


しかし、ストレスや生活習慣、食生活が起因している場合は、そちらを改善しないと、睡眠の問題は解決されないかもしれません。


まだ解明されていないことは沢山ありますが、現時点でわかっているのは、睡眠はパフォーマンスに影響するだけではなく、不規則な睡眠は深刻な病気を引き起こすということです。


適切なストレス管理を行い、規則正しい睡眠のリズムを意識的に作ることで、quality of lifeを得ることができ、病気の予防にもなります。

参考文献

Basheer R, Strecker RE, Thakkar MM, McCarley RM. “Adenosine and sleep-wake regulation.” Prog Neurobiol. 2004 Aug; 73(6):379-96


Borbely AA, Daan S, Wirz-Justice A, Deboer T “ The two-process model of sleep regulation: a reappraisal.” J Sleep Res. 2016 Apr;25(2):131-43


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